2008年9月30日 15:47

MSA認定講座には、どのようなサプリメントがいいのかなどの質問が多く寄せられますが、本当にいい商品とはなんでしょうか? 

サプリメントカウンセリングルーム「ナセラ」で取り扱っているサプリメントメーカーならではの、知識や工夫に関して対談を始めました。今回の素材は、シイタケ由来のβグルカン、レンチナンです。味の素株式会社医薬提携販売部の須賀哲也さんにお話を伺いました。

 

  

MSA: まず、βグルカンについて簡単に説明していただけますか?

 

須賀: 古くから民間伝承的にキノコは生体防御反応(免疫機能)を増強する働きがあるとされ、がんやアレルギー患者、高齢者といった免疫機能が崩れた人々に有用とされてきました。特に、多くのキノコに含有されるβ-グルカンが、生体が元来保有している免疫力:癌や外敵(細菌、ウイルス等)や異物(アレルギー原因物質や毒素)に対する抵抗力を高め、それらを排除する能力を亢進させることが知られています。

βグルカンとは、キノコ中の食物繊維の一種で、ブドウ糖(グルコース)がβ-結合で沢山(数百~数千個)連なった多糖体の総称を言い、多くのキノコに含有されていますが、キノコの種類により結合様式がそれぞれ異なります。そもそも、わが国でキノコ由来のβ-グルカンを単離・精製するのに成功したのは、1968年、国立がんセンター研究所の千原博士らが、シイタケ(ラテン名:Lentinus edodes)から抽出・精製しそのラテン名からレンチナン(“Lentinan”)と名づけたのが始まりです。その後、マイタケ(ラテン名:Grifola frondosa)やスエヒロタケ(ラテン名:Schizophyllum commune)等からも単離・精製され、それぞれグリフォラン(“Grifolan”)、シゾフィラン(“Shizophyllan”)等と命名されています。

 

 

MSA: レンチナンに関するエビデンスはどのようなものがありますか?

 

須賀: シイタケ由来のβ-グルカン、レンチナンの発見以降、多くの研究者によりレンチナンを用いて抗腫瘍活性を中心に基礎研究で薬効の研究が報告されました。また、レンチナンの効果発現の作用機構に関しても多くの研究論文が報告され、レンチナンは生体内の免疫担当細胞(全身に広く分布する白血球系の細胞群)を活性化することにより効果発現することが証明されました。このレンチナンというβグルカンは、日本の臨床治験において、胃癌に対して化学療法剤との併用により、世界で初めて生存期間の延長効果が証明され、1985年に抗悪性腫瘍剤(注射剤)として承認(図1)、現在も医薬品として癌患者に処方されています。シイタケ由来のβ-グルカンの研究は、レンチナンが発見される1968年以前から約40年以上の歴史があり、免疫賦活成分としての科学的根拠が世界中の研究者から報告されています。 

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MSA: レンチナンを食品機能素材として活用する場合、経口摂取で有効であることを証明しなければなりませんが、レンチナンは、経口摂取で有効であるというエビデンスはありますか?

須賀: レンチナンに関する研究は、そのほとんどが静脈注射や腹腔内投与の研究であり、経口摂取で有効であるとする論文はほとんどありません。レンチナンのようなβ-グルカン(他のキノコ由来も同様)を直接経口摂取して、効果を発現させるのは極めて困難なのです。

 

MSA: それは、β-グルカンの立体構造(高次構造)にあるのですか?

 

須賀: はい。レンチナンは、(図2)に示すようにグルコース(ブドウ糖)分子がβ-1,3-結合(一方のグルコース分子の1番目の水酸基と他方のグルコースの3番目の水酸基とが結合している)が直鎖で結合し、β-1,6-結合(1番目と6番目が結合)の枝分かれを持った平均分子量約50万の多糖体です。また、レンチナン分子は、直線状にのびて存在するのではなく、バネのように螺旋構造を呈しています。

このような構造がレンチナンの効果発現には重要とされています。実際にレンチナンを化学反応により低分子量化したり、アルカリ処理や酵素処理によってバネ構造(螺旋構造)を崩してしまうと、たとえ注射で投与しても効果が失活してしまうことが報告されています。さらに、レンチナンの特徴として、分子個々がバネ様の構造(鎖)を呈しますが、いくつかの鎖単位でレンチナン分子どうしが水素結合により会合体を形成、巨大な凝集体を形成します。つまり沢山のバネどうし(数千本)が絡まってしまいます。この凝集体(バネにして数千本単位)は粒子径が数百μmにも達し、さらにはゲル化してしまうこともあります。

 一方、マイクロカプセルのような微粒子の研究から、微粒子を経口摂取した場合、腸管粘膜のリンパ組織(パイエル板と呼ばれ、食べるとか飲むという行為によって取込まれる物質に対して免疫反応を起こす中心的な役割をする免疫組織)から体内に取込まれるのは、粒子径が数μm程度までといわれています。つまり、数百μmの粒子径をもったβ-グルカンの凝集体を経口摂取しても、腸管粘膜から体内に取込まれずにそのまま排泄されてしまう可能性が高いため、効果発現はなかなか期待できません。したがって経口摂取で効果発現させるためには、β-グルカン分子のバネ(鎖)が数千本も絡まった凝集体をβ-グルカン11本のバネ構造を崩さずに、数本~数十本単位に、粒子径にして数μm未満にまで微粒子化分散させる必要があります。近年、「ナノテクノロジー」(微細化技術)が研究され、レンチナンのエイズに対する経口ワクチンの研究において、レンチナン分子のバネ構造を崩すことなく、数千本が絡まった凝集体を、数本~数十本の会合体にまで微粒子化分散、経口摂取でもワクチン化の増強(免疫反応の賦活化)ができることが報告されました。この加工技術を応用することにより食品機能素材としての研究開発が行われ、シイタケエキス中のレンチナンの経口摂取での有用性が示唆されました(図3)。実際に微粒子化する前のレンチナンは腸管から体内に取込まれないのに対して、微粒子化されたレンチナンは取込まれることが示され微粒子化の重要性が報告されています(図4)。

 

 

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MSA: レンチナンは、いつ摂取するのがいいですか?

 

須賀: レンチナン及び微粒子化レンチナン食品(100ml/袋)は、熱(121℃、6分間の加熱加圧滅菌でも安定であることを確認している)に安定であり、加熱したり味噌汁等にしても安定です(凍結させると微粒子が再凝集するため不可)。微粒子化レンチナン食品の投与する時間帯は、空腹時を薦めていますが、動物実験では絶食下で投与しているわけではないので、基本的には投与時間帯は問いません。

 

 

MSA: 食品機能素材が科学的に有用であることを証明する場合、その中の有用成分を単離・精製して効果を明らかにする必要があります。シイタケの場合は、過去40年以上に及ぶレンチナンの研究からレンチナンが有用成分の一つであることは明らかです。また、それを微粒子化することで腸管から取込まれ効果発現することが明らかにされました。残る課題である含有量を保証するためにはどのような方法がありますか?

 

須賀: シイタケのような天然物は、生育する土壌、気候、季節等により有用成分の含有量が異なります。栽培条件を常に一定にして含有量を一定に保つことは重要ですが、含有量を定量する方法を確立し常に一定量(機能発現量)の有用成分を含有させる必要があります。シイタケの場合は、純粋なβ-グルカン;レンチナンが医薬品原料として精製されているため、このレンチナンの純品を標準物質として検量線を作成しシイタケエキス中のレンチナンを定量する方法が確立されています。この方法を利用して製造毎のレンチナン含有量を保証することができます。

 

MSA: シイタケを食品機能素材とした機能性食品を研究開発して市場に出す場合、いくら食経験の豊富なシイタケであって経験上摂取量の目安が安全であると考えられても、その素材を加工し有用成分の生理機能(薬理効果)を期待する食品である場合は、その最終形態での安全性及び有用性を科学的に明らかにする必要があります。レンチナンのヒトにおける安全性や有用性の検証はどうなってますか?

 

須賀: シイタケエキス加工食品(微粒子化レンチナン含有食品)は、その安全性試験が医薬品の安全性評価を行う臨床薬理試験専門医療機関にて、医薬品の安全性評価に準じる形で、倫理委員会の承認を受けた上で実施され、通常量の3倍量を4週間連続摂取して評価、安全性が証明されています。また、ヒトにおける有用性(免疫賦活効果)に関しては図2に示すように、1週間の経口摂取でNatural Killer(NK)活性の増強(図5)や癌患者での症例報告も論文公表されています。さらに、癌患者用の補助食品としての安全性・有用性に関しても、癌患者300例を目標にした全国多施設臨床試験にて検討されており、中間解析結果が報告され安全性及びQuality of life(QOL)の改善、化学療法剤の副作用の軽減効果、良好な予後(生存期間)等が報告されています(図6,7)。

 

 

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MSA: アレルギーに対する有効性はありますか?

 

須賀: 花粉症やアトピー性皮膚炎といったアレルギーに対しても有用であることも報告されています(図8,9)。また、レンチナン自体は自己免疫疾患(リウマチ)に対する投与経験や米国でHIVに対する治験経験もあります。

 

 

 

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本インタビューでは、シイタケの食品機能素材としての有用性を示す中で、シイタケ中の一つの機能成分β-グルカン:レンチナンの有用性に関する科学的根拠を紹介しました。民間伝承的に健康によいとして摂取されてきたシイタケの経口摂取での有用性を否定するものではありません。

事実、シイタケ中には血圧調整効果やコレステロール調整効果を有するシイタケ特有成分「エリタデニン」やその他の有用成分が含まれています。かなり専門的な話になってしまいましたが、ある特定の有用成分に着目した場合には、その成分の物質的特性を十分理解した上で、食品機能素材を加工し、安全性は大前提として、期待する生理機能(薬理効果)をヒトで科学的に証明することが重要と考えるためであります。

最後に、多くの「いわゆる健康食品」やサプリメントが販売されており、特に免疫機能の賦活を目的としたものの中には非常に高額なものも少なくありません。癌のような重大な病を患っている人は、少しでも体によいと聞くと、こうした健康食品を摂取しようとする人が数多く存在します。しかしながら、そうした健康食品には安全性・有用性に関してヒトで臨床試験を行い科学的に証明したものが少ないのが現状です。単行本等で体験談のようなものが掲載されていますが、何人の人が摂取してどの程度有効だったのか?どんな成分が有効なのか?他の治療が施されていなかったのか?全く不明な点が多く科学的根拠とはほど遠いのが現状です。このような情報が錯綜すると一般消費者に誤解を受けて情報が伝えられる場合が数多くあります。少なくとも、医療専門家によるヒトでの安全性・有用性の臨床試験を実施し、医学専門雑誌や学会発表を通して、科学的根拠のある正しい情報を消費者に伝え、消費者が医療従事者と相談しながら選別できるようになって、科学的根拠のない健康食品は淘汰されていくべきと考えます。