しわ取りの薬として知られるボトックスが、がんにも有効である可能性が報告された。マウスの研究で、ボトックスを用いて腫瘍につながる神経を麻痺させることにより、胃がんを治療する試みが行われているという。ただし、この研究はまだごく初期段階のものだと専門家は断っている。
ボトックスはボツリヌス菌が産生する毒素から作られる。顔面筋を麻痺させることにより一次的にしわを伸ばす効果がよく知られているが、米国立衛生研究所(NIH)によると、ほかにも内斜視の矯正、脇の下の多汗症や過活動膀胱のコントロール、片頭痛の治療などにも用いられるという。
米国立がん研究所(NCI)によると、米国では今年、1万1,000人が胃がんで死亡すると推定されている。胃がんは一般に無症状であるため、発見されるころにはかなり進行しており、広範囲の外科手術や化学療法が必要になるという。米国がん協会(ACS)のLen Lichtenfeld氏によると、米国ではさほど多いがんではないが、肥満や胃食道逆流症(GERD)の増大により、特定の種類の胃がんが増えているという。東南アジアや日本では、胃がんの発生率がはるかに高い。
腫瘍の増殖には神経が重要であると考えられているが、その役割は解明されていない。「Science Translational Medicine」に8月20日掲載された今回の新しい研究では、マウスの胃につながる神経を切断する、あるいはボトックス注射で麻痺させるなどの方法により、腫瘍を支持していると思われる神経の活動停止を試みた。
その結果、腫瘍の数および進行が抑えられ、生存率や化学療法の効果も改善された。研究共著者の1人である米コロンビア大学メディカルセンター(ニューヨーク市)教授のTimothy Wang氏は、この知見から、神経が腫瘍の初期の増殖や拡大において重要な役割を担っていることが示唆されると述べている。
Wang氏は、今回の研究にはいくつもの疑問点があることを認めている。神経を麻痺させることで胃の機能に障害が生じる可能性や、治療にかかる費用が不明である点などだ。しかし他のがん治療薬に比較すれば、ボトックスは安価で副作用もほとんどないという。また、胃内視鏡を用いた非侵襲的な処置により投与されるため、病院への滞在時間は数時間で済むと考えられるという。同氏によると、現在、患者を対象とする臨床試験が実施されている。
しかしLichtenfeld氏は、「動物の研究で得られた結果をヒトでも再現できるとは限らない。患者に応用してからベネフィットを主張すべきだ」と指摘している。
The American Cancer Society has more on stomach cancer.
SOURCES: Timothy Wang, M.D., professor, medicine, and chief, digestive and liver diseases, Columbia University Medical Center, New York City; Len Lichtenfeld, M.D., deputy chief medical officer, American Cancer Society, Atlanta, Ga.; Aug. 20, 2014, Science Translational Medicine