2014年11月 9日 00:20
  

1型糖尿病の治癒に向けた第一歩として、ヒトの胚性幹細胞を、インスリン産生能力をもつβ細胞に分化させる大規模な手法が開発された。この最新の研究結果の概要は、「Cell」10月9日号に掲載された。

1型糖尿病は、インスリンを産生する膵β細胞を身体自身が破壊してしまう自己免疫疾患だ。米国では300万人以上が罹患している。患者は血糖コントロールを維持するために毎日インスリンを注射する必要がある。しかし、インスリン注射は糖尿病を治癒するものではない。

研究著者の1人である米ハーバード大学のDouglas Melton氏は、「インスリン注射ではなく、自然の解決法、すなわち膵β細胞を用いて治療を行いたいと考えた」という。同氏らは、この細胞を数億個単位で作製することに成功した。最終的には、糖尿病患者に安全に移植でき、1年以上交換せずに留置できるクレジットカードサイズのβ細胞パッケージを実現させたいとMelton氏は述べている。

米国立衛生研究所によると、幹細胞は未分化の細胞であり、あらゆる細胞への分化を誘導することができる。胚組織から作製することもできるが、成人の体細胞を未分化状態に戻るよう再プログラミングして幹細胞を得ることも可能である(iPS細胞)。今回の取り組みはiPS細胞の開発前に開始されたため、胚性幹細胞を用いて研究を実施したが、新たに発見されたβ細胞の作製法はどちらの幹細胞を用いても有効と考えられるという。

糖尿病でない人は平均10億個のβ細胞を持っているが、実際に必要な数は約1億5,000万個ほどであり、その程度の数であれば既に問題なく作り出すことができるという。

誘導されたβ細胞の遺伝子発現・構造・機能は、自然のヒトβ細胞とほぼ同じであると著者らは説明している。動物実験では、免疫不全状態のマウスにこの細胞を投与すると10日未満で糖尿病が治癒した。免疫機能が正常な動物では、自動的な免疫応答の開始により治癒が阻まれる可能性があるが、この問題を解決する取り組みはすでに進められており、「これまでにβ細胞は動物の体内で6カ月生存している」という。

JDRF(旧名:青少年糖尿病研究財団)のAlbert Hwa氏は今回の知見について、「この種の細胞を容易に作製できるようになったことは、今後の治療に非常に大きな影響をもたらす可能性が高い」として、期待を示している。


For more about diabetes, visit the American Diabetes Association.

SOURCES: Douglas A. Melton, Ph.D., co-scientific director, department of stem cell and regenerative biology, Harvard Stem Cell Institute, Harvard University, Cambridge, Mass.; Albert Hwa, Ph.D., director, discovery research, JDRF; Oct. 9, 2014, Cell