西アフリカで猛威をふるっているエボラ出血熱。今のところ根本的な治療法はなく、多数の死者が出ています。
世界中から支援を受けた地元政府やWHO(世界保健機関)などの懸命の努力にもかかわらず抜本的な対策が進まないなか、渡航者らによってウイルスは世界に広がっているとみられ、他の国々でも次々と感染者が見つかる事態となっています。
ただ、患者が出た国でも米国やスペインなどの先進国では、現時点ではウイルスの拡散はある程度抑え込まれており、今のところパンデミック(世界的大流行)にはなっていません。
日本国内でも感染の疑いがある渡航者が見つかるなど、私たちにとっても決して無関係ではなく、まだまだ油断は出来ない状態が続いています。
「正しく恐れる」――感染症や災害に立ち向かう際のこの黄金律が、今ほど重要なときはありません。ヒントになりそうな情報をまとめました。
【エボラ出血熱】
エボラウイルスに感染して起きる。潜伏期間は2~21日。主な症状は発熱や頭痛、嘔吐(おうと)、下痢など。歯ぐきや目、消化管から出血することもある。重症化すると多臓器不全で死亡する。致死率はウイルスの型で異なり、25~90%。患者の血液や体液、吐いた物、排泄(はいせつ)物に直接ふれ、その手に傷があったり、ふれた手で目鼻口の粘膜をさわったりすると感染する。
バスやエレベーター内での鼻水、咳、くしゃみは、インフルエンザの季節には不安に感じるものだ。しかし最近では、西アフリカを中心とするエボラ出血熱の流行で、この恐怖がますます高まっている。しかし「New England Journal of Medicine」が報告会のために招集した専門家パネルによると、そのような状況でウイルスに感染する危険はないという。
国境なき医師団のArmand Sprecher氏は、「今回および過去のエボラ流行で得られたエビデンスから、ウイルスが咳やくしゃみでは伝播しないことが強く示唆されている。もし著明な空気感染があるなら、既知の症例と関連のない自然発生例がみられるはずだ。エボラの感染経路を調べると、必ず重篤患者や遺体との直接接触などの明確な曝露があったことがわかる」と話している。治療にあたる医療従事者向けの新たなガイドラインで、皮膚の露出がない全身防護服に焦点を当てているのもそのためであると、米国疾病管理予防センター(CDC)のArjun Srinivasan氏は述べている。
問題となるのは、疾患が進行すると生じる嘔吐や下痢による体液で、疾患が重症になるほど感染力が強まるという。潜伏期間や発症から1~2日までの、発熱のみで体液が出ていない段階では、偶発的な接触から感染することはないとSrinivasan氏は話す。米国最初のエボラ患者トーマス・エリック・ダンカン氏の家族が、発病時に本人とともに自宅にいたにもかかわらず、誰も感染していない事実は重要であると、同氏は指摘している。
しかし、専門家らはこのような主張が科学的根拠に基づくものではなく、疫学者の観察に基づくものであることを認めている。例えば、Sprecher氏によると、エボラ感染から回復した患者が他者に感染をもたらすことはないと思われるが、そのエビデンスは「きわめて弱い」という。また、一部の患者には抗体の効果を期待して回復した患者の血清が利用されているものの、回復患者に免疫ができているのかどうかも明確にはわかっていない。
今回の報告会では、疾患が流行するギニア、リベリア、シエラレオネでの取り組みについての最新情報も提供された。貧しい人々の健康向上に取り組む機関「Partners In Health」のPaul Farmer氏によると、今回の流行は、元来人手不足であった現地の医療システムに深刻な打撃をもたらしている。例えば、リベリアには数百万人が居住するが、公共の医療機関で働く医師は50人未満だという。治療施設も十分に展開されておらず、物資の不足も続いている状態だ。
For more on Ebola virus, visit the U.S. Centers for Disease Control and Prevention.
SOURCES: Oct. 22, 2014, press conference, New England Journal of Medicine, with: Armand Sprecher, M.D., public health specialist, Doctors Without Borders; Arjun Srinivasan, M.D., associate director, healthcare-associated infection prevention programs, U.S. Centers for Disease Control and Prevention; Jeremy Farrar, M.D., Ph.D., director, Wellcome Trust; Paul Farmer, M.D., Ph.D., co-founder, Partners In Health
■エボラ出血熱など一類感染症の患者を治療する45指定医療機関(2014年7月1日現在)
【特定感染症指定医療機関】
- 成田赤十字病院(千葉県)
- 国立国際医療研究センター病院(東京都)
- りんくう総合医療センター(大阪府)
※成田赤十字病院とりんくう総合医療センターは第一種感染症指定医療機関でもある
【第一種感染症指定医療機関】市立札幌病院(北海道)
- 盛岡市立病院(岩手県)
- 山形県立中央病院(山形県)
- 福島県立医大病院(福島県)
- JAとりで総合医療センター(茨城県)
- 自治医大病院(栃木県)
- 群馬大病院(群馬県)
- 埼玉医大病院(埼玉県)
- 成田赤十字病院(千葉県)
- 都立墨東病院(東京都)
- 都立駒込病院(東京都)
- 荏原病院(東京都)
- 横浜市立市民病院(神奈川県)
- 新潟市民病院(新潟県)
- 富山県立中央病院(富山県)
- 福井県立病院(福井県)
- 山梨県立中央病院(山梨県)
- 長野県立須坂病院(長野県)
- 岐阜赤十字病院(岐阜県)
- 静岡市立静岡病院(静岡県)
- 名古屋第二赤十字病院(愛知県)
- 伊勢赤十字病院(三重県)
- 大津市民病院(滋賀県)
- 京都府立医大病院(京都府)
- 市立堺病院(大阪府)
- 大阪市立総合医療センター(大阪府)
- りんくう総合医療センター(大阪府)
- 神戸市立医療センター中央市民病院(兵庫県)
- 兵庫県立加古川医療センター(兵庫県)
- 奈良県立医大病院(奈良県)
- 日赤和歌山医療センター(和歌山県)
- 鳥取県立厚生病院(鳥取県)
- 松江赤十字病院(島根県)
- 岡山大学病院(岡山県)
- 広島大学病院(広島県)
- 山口県立総合医療センター(山口県)
- 徳島大学病院(徳島県)
- 高知医療センター(高知県)
- 福岡東医療センター(福岡県)
- 佐賀県医療センター好生館(佐賀県)
- 長崎大学病院(長崎県)
- 熊本市立熊本市民病院(熊本県)
- 沖縄県立南部医療センター・こども医療センター(沖縄県)
- 琉球大学病院(沖縄県)