レジのレシートに触れると、ビスフェノールA(BPA)と呼ばれる化学物質の身体への吸収率が劇的に増大する可能性があることがわかった。
BPAは、もともとはエストロゲンサプリメントとして作られたものだが、乳児や小児の発達上の問題のほか、成人のがん、肥満、糖尿病、心疾患との関連が認められている。プラスチック水筒や食品缶の内張りなどのさまざまな製品に含まれるほか、航空券やATM明細書などの感熱紙の顕色剤としても使用されている。
研究の筆頭著者である米ミズーリ大学生物科学部助教授Julia Taylor氏は、BPAは内分泌攪乱物質であるため、ヒトへの健康リスクを考慮する必要があると主張している。「感熱紙に含まれるBPAは、血液中に急速に吸収されると考えられる。今回の研究で測定された量でも、糖尿病などの多数の疾患や、肥満などの障害が増加する可能性がある」と同氏はいう。
オンライン科学誌「PLOS ONE」に10月22日掲載された今回の研究では、被験者に手の除菌剤を使用した後にレシートに触れてもらい、血液および尿を採取した。その結果、BPAがレシートから被験者の皮膚に入り込み、体内のBPA量を劇的に増加させることが判明した。除菌剤の使用により、吸収率はさらに増大したという。
また、ファストフードレストランでの行動を再現するために一部の被験者にはレシートに触れた後の手でフライドポテトを食べてもらったところ、やはりBPAが急速に皮膚に吸収されることがわかった。
Taylor氏によると、BPAは極めて広く使用されているため、米国では90%を超える人の尿中に検出されるという。BPAについての認識が広まったことから、代わりにビスフェノールS(BPS)という物質を使用する動きもみられる。しかし、BPSはエストロゲンに似た作用をもつという点でBPAと同じであり、環境中に長期間残り続けるため、代替品としてBPAより優れているとはいえないという。
さらに、紙製品のリサイクルではレシート類も回収されることが多いため、再生紙製品にはこれらの化学物質が含まれており、曝露の可能性をますます増大させていると同氏は指摘する。
米神経毒・神経障害研究所(シアトル)のSteven Gilbert氏は、米国では年間150億ポンド(約68億kg)のBPAが使用されていると指摘し、「環境中に排出する化学物質についても、もっと慎重になる必要がある」と述べている。
業界団体である米国化学工業協会(ACC)のSteven Hentges氏は、この実験は「非現実的」であるとし、BPAは安全だと強調している。「米国疾病管理予防センター(CDC)のデータによると、消費者があらゆる経路から曝露するBPAの総量は、政府機関の定める安全な摂取量の約1,000分の1だとされている。また、米国食品医薬品局(FDA)はBPAを食品容器に使用しても安全との見解を示している」と同氏は話している。
For more on BPA, visit the U.S. National Institutes of Health.
SOURCES: Julia Taylor, Ph.D., assistant professor, division of biological sciences, University of Missouri, Columbia; Steven Gilbert, Ph.D., director and founder, U.S. Institute of Neurotoxicology and Neurological Disorders, Seattle; Steven Hentges, Ph.D., spokesman, American Chemistry Council; Oct. 22, 2014, PLOS One, online