2015年2月11日 17:01
 

がんの3分の1は環境因子や遺伝に関連するものだが、残りの3分の2はランダムな変異に起因することが、新たな研究で示唆された。このような変異は幹細胞が分裂するときに起こるという。喫煙などの不健康な生活習慣は寄与因子の1つであるが、多くのがんの発症には「不運」なランダム変異が関与していると、研究グループは結論付けている。


米ジョンズ・ホプキンズ大学医学部腫瘍学教授のBert Vogelstein氏は、「あらゆるがんは、不運と環境、遺伝の組み合わせによって起こる。われわれはこの3つの因子ががんの発症にどの程度寄与しているのかを定量化するモデルを作製した」と説明している。

たばこなどの発がん物質に曝露してもがんにならず長生きする人がいるのは「優良な遺伝子」のためだといわれることも多いが、実はほとんどは単に運が良いだけだと同氏は付け加える。

この知見は、がんリスクに対する認識だけでなく、がん研究への資金提供にも変化をもたらす可能性があるという。同大学助教授で生物数学者のCristian Tomasetti氏は、「幹細胞の分裂時に生じるランダムなDNA変異によって、あらゆる組織のがん発生の3分の2を説明できるとすれば、生活習慣の改善は特定のがんの予防には非常に有効であるが、その他のがんには効果がない可能性がある」とする。

Tomasetti氏は、「そのようながんを早期に治癒可能な段階で検出する方法を見つけることに、資金を集中させる必要がある」と提案している。

今回の研究では、31の異なる身体組織での幹細胞の分裂数に関する過去の研究を検討し、その領域の生涯のがんリスクと比較した。ただし、乳がんや前立腺がんなどの一部のがんについては、信頼できる研究がないため今回は対象としていない。

計算の結果、22種類のがんは主に細胞分裂時のランダム変異によって説明できることがわかった。その他の9種類は、「不運」と環境や遺伝の組み合わせによる可能性が高いようであった。

幹細胞の分裂数が多い身体領域ほど、がんリスクが高かった。例えばヒトの結腸(大腸)は幹細胞の分裂数が小腸の4倍であるため、小腸よりもがんが多いと考えられるという。大腸は小腸よりも環境因子に多く曝露しているとの見解もあるが、マウスの場合は逆に小腸よりも大腸の幹細胞分裂が少なく、大腸がんは小腸がんに比べて少ない。このことからも、幹細胞の分裂ががんの発症に決定的に関与していることが裏付けられると、研究著者らは結論付けている。

この研究は「Science」オンライン版に1月1日掲載された。


More information

The U.S. National Cancer Institute has more about risk factors for cancer.

SOURCE: Johns Hopkins Kimmel Cancer Center, news release, Jan. 1, 2015