2015年5月14日 16:36
  

糞便移植や幹細胞といった実験的治療法が、難治性の下痢などを起こす難病であるクローン病に有効である可能性が、2つの臨床研究で示された。

クローン病・大腸炎財団(CCFA)によると、クローン病は米国で70万人が罹患する腸の慢性炎症性疾患で、免疫系が消化管内面を誤って攻撃してしまうことにより、腹部仙痛、下痢、便秘、直腸出血などを引き起こす。

「Inflammatory Bowel Diseases」に掲載された第一の研究では、糞便移植について検討した。この治療は、ドナーから採取した便をクローン病患者の消化管に移植して腸内の細菌組成を変えようとするものだ。

研究を率いた米シアトル小児病院のDavid Suskind氏によると、免疫系を抑制する現行の治療法とは異なり、糞便移植は免疫系が「微生物叢」に反応する環境を変化させるものだという。移植治療の結果、小児9人中7人の症状が2週間以内にほとんど、または完全に消失し、うち5人が12週間後まで寛解を維持していた。

米レノックス・ヒル病院(ニューヨーク市)のArun Swaminath氏は、糞便移植はクローン病治療としては未承認だが、クロストリジウム・ディフィシル感染症の治療に用いられることがあると説明する一方、今回の検討では対照群を設けていないため、自然寛解した患者が含まれる可能性があると指摘している。

Suskind氏によると、一部のクローン病患者は1回の移植で腸内微生物叢が急激に変化し、その後は食事に注意するだけでその効果を維持できる可能性があるという。しかし、米モンテフィオーレ医療センター(ニューヨーク市)のDana Lukin氏は、小児で得られた所見が成人にも当てはまるかはわからないと述べている。

「Stem Cells Translational Medicine」に掲載されたもう1つの研究では、クローン病の深刻な合併症である瘻孔の治療に幹細胞を用いた。

瘻孔は、腸管と他の腸管もしくは膀胱、皮膚などがトンネル状につながってしまう病態で、治療には抗生物質、生物学的製剤、「接着剤」、外科手術などが用いられるが、問題を解消できることは少ないという。

この研究はChang Sik Yu氏が率いる韓国のグループによるもので、患者自身の脂肪組織から幹細胞を採取し、接着剤とともに手術で瘻孔に注入した。2年後、36例の患者のうち75%では瘻孔が塞がったままであることが確認された。

Swaminath氏は、この検討についても対照群が設定されていない点を指摘している。Lukin氏は、大規模研究によって幹細胞の安全性と有効性が裏付けられたとしても、この治療法は「特殊技能」と専門知識を要するものであり、すぐに実現するのは難しいだろうと述べている。