2015年10月20日 17:44
  

米国では、薄毛からアルツハイマー病まで、さまざまな疾患に対して未承認の幹細胞治療を行うクリニックが多数存在することが報告された。研究の筆頭著者である米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のHermes Taylor-Weiner氏は、「このような営利目的のクリニックは、患者を守るための規制の枠組みから外れた治療を行い、安全性や有効性が明らかでない幹細胞治療を売っている」と述べている。

「New England Journal of Medicine」9月10日号に掲載された今回の報告によると、幹細胞治療の分野は一般の人が考えているほどには進歩していないという。未承認の治療を行うクリニックは控えめにみても数百、実際には数千も存在する可能性があるとTaylor-Weiner氏は話す。

米国食品医薬品局(FDA)が承認している幹細胞治療は数種類にとどまり、その治療は骨髄から採取した細胞を用いるものだ。しかし、今回報告されたクリニックの多くは、脂肪吸引で採取した脂肪細胞から幹細胞を分離する方法を用いていた(間質血管細胞群;SVF)。幹細胞治療は、あらゆる細胞になる能力をもつ細胞が必要な部位に到達して損傷を修復することを期待するものだが、SVF細胞は必要のない場所へ移動して健康な臓器を傷つける可能性もあると、Taylor-Weiner氏は説明している。

ヒトへの移植を目的とするあらゆる細胞・組織製剤はFDAの規制対象であり、規制の内容はいくつかの要素によって決まるという。幹細胞を含めたヒト細胞・組織製剤の開発者は、市販前承認が必要かどうかをFDAに確認する必要がある。未承認のSVF治療は保険が適用されないため、5,000~5万ドルの費用がかかることもあるという。またTaylor-Weiner氏によれば、そのようなサービスを受けることにより、承認された治療を受ける機会を失ってしまう危険もある。

米イェール大学予防研究センターのDavid Katz氏は、クリニックの規制が進むまでは消費者が気をつけるしかないと述べている。幹細胞治療には無限の可能性があり、期待されるのも当然だが、科学の限界を超えた大げさなうたい文句が常にみられると同氏は指摘し、「このようなクリニックの対象となる患者は特に、うますぎる話にだまされやすい傾向がある」と述べている。


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For more on stem cell therapy, visit the U.S. National Institutes of Health.

SOURCES: Hermes Taylor-Weiner, Ph.D., department of bioengineering, University of California, San Diego; David Katz, M.D., M.P.H., director, Yale University Prevention Research Center, New Haven, Conn.; Sept. 10, 2015, New England Journal of Medicine